結論。発注前に3つ決める
マンション共用部へ防犯カメラを設置するときは、機種選びから始めません。発注前に、設置目的、管理組合内の決議ルート、映像の運用ルールを決めます。
この3点が曖昧なままでは、総会で説明しにくくなります。設置後も、誰が映像を見られるのか、警察へ渡すときはどうするのかで迷います。
| 発注前に決めること | 完成の目安 |
|---|---|
| 設置目的 | どの場所で、どの場面を確認したいか説明できる |
| 決議ルート | 自分のマンションの管理規約と工事範囲に沿って決める |
| 運用ルール | 閲覧、保存、持ち出し、削除、苦情対応を文書化する |
本記事は、分譲マンションの管理組合が検討を始めるための実務手順です。個別の決議要件や個人情報の扱いは、管理規約、工事内容、運用主体により変わります。判断が難しい場合は、管理会社やマンション管理士、弁護士へ確認してください。
まず自分の管理規約と決議ルートを確認する
国土交通省のマンション標準管理規約は、各マンションが管理規約を作成・改正するときのひな型です。実際の手続きは、自分のマンションで有効な管理規約と使用細則を優先します。
標準管理規約のコメントでは、防犯カメラや防犯灯の設置は普通決議で実施できる工事の例に挙げられています。ただし、建物へ与える影響、工事規模、予算、既存規約の定めにより扱いは変わります。「防犯カメラなら必ず普通決議」とは限りません。
参考: 国土交通省「マンション標準管理規約」/令和7年改正版・単棟型(コメント含む)(確認日: 2026-08-25)
確認は次の順で進めます。
- 現行の管理規約、使用細則、総会議事録を用意する
- 共用部分の変更、予算支出、使用細則の制定に関する条項を探す
- 理事会決議、普通決議、特別決議のどれに当たるか整理する
- 管理会社へ、同じ規模の工事を過去にどう扱ったか確認する
- 判断が割れる場合は、専門家の意見を議案資料へ添える
国土交通省は2025年10月に標準管理規約を改正し、改正区分所有法は2026年4月1日に施行されました。古い規約や過去の議案をそのまま使わず、現在の規約と招集手続きを確認します。
理事会用の1枚提案書を作る

最初の理事会では、製品カタログより1枚の提案書を使います。居住者からの要望、不審者情報、破損、無断駐車などを混ぜず、対象となる出来事を分けて書きます。
| 提案書の欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 背景 | いつ、どこで、何を確認できず困ったか |
| 目的 | 侵入、器物損壊、無断駐車など、確認対象を一つずつ書く |
| 候補場所 | 平面図へ入口A、駐輪場Bのように番号を振る |
| 撮影範囲 | 出入口、通路、車路など。住戸内やバルコニーを避ける |
| 完成条件 | 昼夜の録画を検索し、必要な場面を確認できる |
| 概算費用 | 機器、工事、設定、掲示、保守を分ける |
| 運用 | 管理責任者、閲覧理由、保存、持ち出し、削除を決める |
| 予定 | 現地調査、見積もり、総会、工事、引き渡しの日程 |
「安心のため」だけでは、必要な画角や保存条件を決められません。「深夜に共用玄関を通る人物を録画から確認する」のように、場所、時間、確認対象を組み合わせます。
設置場所は目的別に決める

共用部の候補を先に全部並べ、場所ごとの役割を一つずつ決めます。カメラ台数を増やすことより、確認したい場面が画角に入ることが重要です。
| 候補場所 | 確認したい場面 | 撮影範囲で注意する点 |
|---|---|---|
| 共用玄関 | 出入りする人物、共連れ | 道路や近隣建物を広く映し過ぎない |
| エレベーターホール | 利用者の動線、扉前の状況 | 住戸玄関の内部が開閉時に映らないか確認する |
| エレベーター内 | 乗降、操作盤付近の状況 | 録画目的と閲覧条件を掲示・細則へ反映する |
| 共用廊下 | 特定区画への移動、破損箇所 | 玄関内や窓の内部を避け、マスキングを検討する |
| 駐車場・駐輪場 | 車両、自転車、出入口の動線 | ナンバーや人物を識別したい位置と距離を現地で試す |
| ごみ置場 | 不法投棄、利用時間帯 | 隣接住宅や公道を必要以上に映さない |
昼の静止画だけで位置を確定しないでください。夜間、逆光、雨天、照明点灯時に、顔や車両がどの程度確認できるかを現地調査で確かめます。
神奈川県警察の街頭防犯カメラ運用例では、私有地が映る場合のマスキングや、管理責任者を置く運用が示されています。マンションへ直接適用される規則ではありませんが、撮影範囲を狭める確認項目として使えます。
参考: 神奈川県警察「街頭防犯カメラシステム・街頭防犯カメラ」(確認日: 2026-08-25)
総会議案へ9項目を盛り込む
総会の議案は「防犯カメラ設置の件」だけで終わらせず、承認する範囲を本文と添付資料で示します。後から位置や費用が変わる可能性がある場合は、理事会へ委任する範囲も明記します。
| 議案の項目 | 添付・記載する内容 |
|---|---|
| 1. 目的 | 対象とする出来事と利用目的 |
| 2. 設置場所 | 番号付き平面図、台数、撮影方向 |
| 3. 機器・録画 | 主な仕様、保存方式、想定保存日数の条件 |
| 4. 工事 | 取付、電源、配線、穴あけ、既存設備への影響 |
| 5. 予算 | 上限額、支出科目、月額費用、将来の更新費 |
| 6. 業者選定 | 比較方法、見積もり数、選定理由 |
| 7. 運用細則 | 閲覧、保存、提供、削除、苦情対応 |
| 8. スケジュール | 契約、工事、試運転、運用開始 |
| 9. 委任範囲 | 位置や機種の軽微な変更を誰が決めるか |
議案資料には、見積書だけでなく平面図と運用細則案を添えます。撮影される場所と、映像を見る条件を同じ時点で説明できます。
運用細則は設置前に決める
カメラ画像から特定の人を識別できる場合、個人情報に当たり得ます。個人情報保護委員会は、防犯目的をできる限り特定し、その範囲内で利用する考え方を示しています。
カメラの存在を本人が容易に認識できない場合は、「防犯カメラ作動中」などの掲示が措置の例です。外観からカメラと分かる場合も、掲示によって認識しやすくすることが望ましいとされています。
参考: 個人情報保護委員会「従来型防犯カメラに関するQ1-13」(確認日: 2026-08-25)
運用細則には、少なくとも次の12項目を置きます。
- 設置目的
- 設置場所、台数、撮影範囲
- 管理責任者と操作担当者
- 閲覧できる理由
- 閲覧の申請、承認、立会い
- 閲覧日時、理由、担当者を残す記録
- 保存期間と自動上書きの方法
- USBなどへ複製できる条件
- 警察や第三者へ提供する条件と記録
- パスワード、鍵、録画機の保管
- 故障、更新、撤去、データ消去
- 居住者からの問い合わせ・苦情の窓口
埼玉県の防犯指針は、公共の場所を撮影する防犯カメラの運用項目を示しています。目的、設置場所と範囲、管理責任者、画像の利用制限、保存、消去、苦情対応などです。対象となる設置者の範囲は確認が必要ですが、細則案の漏れを探すチェックリストになります。
参考: 埼玉県「防犯のまちづくりに関する指針」(確認日: 2026-08-25)
プライバシーとアカウントを分けて考える

プライバシー対応は、カメラの向きだけでは終わりません。映像へアクセスできる人と端末を絞り、閲覧した理由を後から確認できる状態にします。
| 設計時 | 運用時 |
|---|---|
| 住戸内、バルコニー、近隣敷地を避ける | 管理者と閲覧者のアカウントを分ける |
| 必要な範囲だけを撮影する | 共有パスワードを避け、退任時に権限を外す |
| 必要に応じてプライバシーマスクを使う | 閲覧・書き出しの日時、理由、担当者を記録する |
| 録画機を施錠できる場所へ置く | USBや端末へ複製した映像の返却・消去を確認する |
個人情報保護委員会のQ&Aは、個人データを扱う情報システムについて、アクセス権限の最小化、認証、アクセス記録、不正アクセス対策を例示しています。遠隔閲覧を使う場合は、理事全員で一つのIDを共有せず、必要な担当者だけへ権限を付けます。
参考: 個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドラインに関するQ&A」(確認日: 2026-08-25)
見積もりは機器・工事・運用に分ける
現地調査を依頼するときは、各社へ同じ目的、候補場所、録画条件を渡します。見積書は総額だけではなく、次の区分へ移して比較します。
| 区分 | 確認する項目 |
|---|---|
| 機器 | カメラ、録画機、容量、モニター、掲示物 |
| 工事 | 取付、電源、配線、配管、穴あけ、防水、高所作業 |
| 設定 | 時刻、画質、保存、マスキング、アカウント、通知 |
| 引き渡し | 昼夜の再生、操作説明、完成図、設定情報 |
| 導入後 | 機器保証、工事保証、故障窓口、出張費、定期点検 |
詳しい依頼条件は、店舗・事業所の防犯カメラ設置費用で見落としやすい項目にも整理しています。マンションでは、平面図、総会で承認した範囲、運用細則案も一緒に渡します。
2026年9月確認の掲載82社のうち、公式サイトの記載から「マンション」対応タグを付けられた会社は13社でした。タグがない会社を非対応と判定した数字ではありません。公開情報だけでは分からない会社もあるため、候補地域、共用部工事、総会資料への協力可否を個別に確認します。
相談先は防犯カメラ設置業者の一覧から探せます。資格の役割は防犯設備士と電気工事士の違い、設置後の窓口は防犯カメラの保守契約で確認する項目も確認してください。
設置日は昼夜の再生まで確認する
設置工事の終了と、運用開始は同じではありません。管理組合側の担当者が録画を検索し、昼夜の映像を再生できるところまで確認します。
IPAはネットワークカメラの対策を、設計構築、運用、保守、廃棄の段階に分けています。初期設定のまま使わず、更新、故障、交換、撤去時のデータ消去まで担当を決めます。
参考: IPA「ネットワークカメラシステム チェックリスト」(確認日: 2026-08-25)
引き渡しでは、次を実機で確認します。
- 各カメラの昼と夜の録画を検索・再生する
- 時刻、画角、ピント、マスキング、保存条件を確認する
- 管理責任者と閲覧担当者の権限が分かれているか試す
- 映像の書き出しと再生方法を、細則の手順どおりに試す
- 完成図、機器一覧、設定情報、保証書、故障窓口を受け取る
- 管理会社と理事交代時の引き継ぎ先を決める
録画日数は、容量だけで決まりません。台数、解像度、フレームレート、動体検知、撮影量で変わるため、見積書の想定条件と実機表示を照合します。
管理組合が進める5段階
マンション共用部の防犯カメラは、次の5段階に分けると進行を管理できます。
- 目的と候補場所を1枚にまとめる
- 管理規約と決議ルートを確認する
- 現地調査と見積もりを同じ条件で依頼する
- 平面図、予算、運用細則案を付けて総会へ諮る
- 工事後に昼夜の再生、権限、引き継ぎ資料を確認する
管理会社へ任せる場合も、管理責任者と承認主体は管理組合側で確認します。業者には機器と工事だけでなく、総会資料に使う撮影範囲図、想定保存条件、保守範囲まで書面で求めます。
よくある質問
Q. 理事会の判断だけで設置できますか。
管理規約、予算、工事内容により異なります。国土交通省の標準管理規約はひな型です。自分のマンションの規約にある共用部分の変更、予算、細則制定の条項を確認してください。
Q. 保存期間は30日にすればよいですか。
全国共通の固定日数として30日が決まっているわけではありません。利用目的、必要場面を把握するまでの期間、容量、自治体の指針を基に決め、細則と機器設定を一致させます。
Q. 居住者なら誰でも映像を見られますか。
居住者であることだけを閲覧理由にせず、目的、申請、承認、立会い、記録を細則で決めます。事件・事故時の提供も、依頼元、対象期間、提供範囲、担当者を記録します。
Q. ダミーカメラでもよいですか。
録画確認が目的なら、ダミーカメラでは完成条件を満たしません。威嚇表示だけを目的にする場合も、誤解、管理、交換を含めて管理組合内で決めます。